活動のあゆみ
1993年2月、田邊いと枝の呼びかけにより、有志4人が集まって発足しました。
暗中模索ながら、招待講師内藤和美氏による「女性学連続講座」を受けつつ、活動を開始して現在に至っています。主な活動をご紹介します。
女性作品のコンサート企画・開催
1994年10月 | 第1回企画 「女性作曲家の存在を知り、聴くコンサート」 (横浜女性フォーラム主催) |
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1996年2月 | 第2回企画・主催「エイミー・ビーチ個展―その室内楽作品集」(津田ホール協賛) |
1998年3月 | 第3回企画・共催「没後150年記念コンサート:回顧ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル」(音楽とフェミニズムを奏でる会主催。府中の森芸術劇場ウィーンホールにて) |
2001年2月 | 第4回企画・主催「日本の女性作曲家展-松島彜・金井喜久子・吉田隆子・渡鏡子」(東京文化会館) |
2003年3月 | 第5回企画・共催「日本の5人の女性作曲家とタイユフェール」(パリ日本文化会館共催) |
2004年10月 | 第6回企画・主催「ルイーズ・ファランク生誕200年記念コンサート」(東京文化会館) |
2010年12月 | 第7回企画・主催「吉田隆子生誕100年記念コンサート」(求道会館) |
2013年4月 | 第8回企画・主催 「吉田隆子の世界」(ルーテル市ヶ谷センター) |
2013年8月 | 企画協力:国立女性教育会館企画展示との連動企画によるコンサート ピアノ&トーク 中田真理子 (ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの作品) |
2019年3月 | 第9回企画・主催「20世紀の女性作曲家展~ヴァイオリン&ピアノの響き」(古賀政男音楽博物館 けやきホール) |
レクチャー・CDコンサート
1996年10月 | 「クララ・シューマン没後100年―その実像を探る」(東京ウィメンズプラザにて) 講演:小中慶子・市川啓子・湯浅玲子 |
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1997年11月 | 「ファニー・ヘンゼル=メンデルスゾーン没後150年―19世紀を代表する女性作曲家の生き方とその音楽研究」(東京ウィメンズプラザにて) 講演:玉川裕子・木下まゆみ・西阪多恵子 |
1999年1月 | 「日本の女性作曲家~明治・大正・昭和を通して」(なかのZEROにて) 講演:辻浩美 |
2007年3月 | 「昭和を生きた二人の女性作曲家~金井喜久子と吉田隆子~」 (女性と仕事の未来館にて) 講演:辻浩美 |
2013年10月 | 企画協力:国立女性教育会館企画展示との連動企画によるレクチャー 「フランスの多彩な女性作曲家たちを知る」 講演:小林緑 |
翻訳・執筆活動
1997年10月 | 新水社より翻訳出版:『フェミニン・エンディング―音楽・ジェンダー・セクシュアリティ』スーザン・マクレアリ著(翻訳グループ訳) |
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1999年3月 | 小林緑著『女性作曲家列伝』平凡社より出版(会員の多くが執筆を担当) *この他、会員個人による雑誌・紀要等への投稿多数。 |
2015年11月 | 玉川裕子編著『クラシック音楽と女性たち』青弓社より出版(会員8名が執筆) |
月例会の主な内容
2024年度の例会
4月 | 2024年度総会:活動報告、会計報告、役員改選、その他 (オンライン会議システムにて) |
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過去の例会(1993年度~)
1993年度
2月 | ●田邊いと枝の呼びかけにより、4名で発足 |
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3月 | 招待講師内藤和美による「女性学連続講座」開催(11月まで全10回) |
5月 | ●会の名称を「女性と音楽研究フォーラム」とし、活動方針を決定 |
6月 | 会員発表:市川啓子「A.コーエン編『国際女性作曲家事典』の紹介と注解」 |
8月 | 会員発表:小林緑「19世紀フランス社会における女性と音楽をめぐる問題点」 |
9月 | 会員発表:小林緑「近代社会における女性と音楽:Louise Farrenc (1804-1875)をめぐって」 会員発表:江崎公子「幸田 延-近代との葛藤」 ●S.McClary著 Feminine Endingsの翻訳・出版を決定 |
1994年度
1月 | 会員発表:玉川裕子「ドイツ市民社会興隆期における女子教育と音楽教育熱 |
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3月 | ●翻訳グループ発足 |
4月 | 会員発表:永井優子「音楽におけるフェミニズム」 |
5月 | 招待講演:小西奈雅子「日本女性作曲家連盟活動の歩み」 |
7月 | 会員発表:小賀文恵及び福田美代子:女性作品試演 |
11月 | 会員発表:小林緑「音楽表現と性差」(AWAC特別公開セミナーにて講演) |
12月 | 会員発表:玉川裕子「F.ホフマンの『楽器と身体―市民文化における楽器を奏でる女性』をめぐって」 |
1995年度
1月 | 会員発表:玉川裕子「F.ホフマンの『楽器と身体-市民文化における楽器を奏でる女性』をめぐって」その2 ●演奏グループ発足 |
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2月 | 大谷嘉代子「ヴィクトリア朝を生きた女性作曲家―エセル・スマイス考」 招待講演:神川亜矢「マドンナを体験する―フェミニズム音楽批評の試みのために」 |
3月 | 会員発表:小林緑「19世紀パリの音楽生活と女性」(日仏女性資料センター総会にて講演) 招待講演:渡辺裕「《近代化》考察―阪神大震災及び動物園問題を通して」 |
7月 | 招待講演:神川亜矢「ロックの拡張と女性表現―白人女性スターと視覚とのかかわりを中心に |
10月 | 会員発表:西阪多恵子「シューベルトのセクシュアリティをめぐる論争から」 |
12月 | 招待講演:香川檀「『音楽史の中の女たち』から美術まで |
1996年度
3月 | 会員発表:小林緑「R.ソリー著『音楽学と差異』の書評と紹介」 |
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6月 | 会員発表:湯浅玲子「クララ・シューマンの演奏活動」 |
9月 | 招待講演:水垣玲子「『音楽と女性の歴史』の翻訳を終えて」 |
1997年度
2月 | 会員発表:木下まゆみ「ファニー・ヘンゼル研究―無言歌をめぐって」 会員発表:森みゆき「女義太夫の再評価―明治期東京を中心に」 |
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5月 | 招待講演:深澤純子「西洋絵画が女性をどう表現してきたか」 |
7月 | 会員発表:小林緑「ファニー・ヘンゼル・メンデルスゾーン―その生涯と作品を知ろう」(国分寺市ひかりプラザにてレクチャー・CDコンサート) |
9月 | 会員発表:辻浩美「松島 彜―人と作品」 |
1998年度
1月 | 招待講演:井上貴子「ジェンダーと音楽学―問題点と可能性―『フェミニン・エンディング』を中心に」 |
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6月 | 会員発表:山村知子「中世ヨーロッパのキリスト教音楽と女性」 |
8月 | 会員発表:森池日佐子「オペラ『カルメン』にみる愛と自由」 |
11月 | 会員発表:辻浩美「松島彜(1890-1985)の生涯と作品」 |
1999年度
3月 | 招待講演:高木要「修士論文『19世紀から今世紀前半の欧米の女性作曲家―通史的研究』を終えて」 |
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5月 | 会員発表:原佳代「ファニー・ヘンゼル―“Das Jahr”を中心に」 会員発表:大谷嘉代子「アメリカの音楽学界について」 |
6月 | 招待講演:廣井榮子「娘義太夫の『近代』-竹本綾之助から豊竹呂昇へ」 |
8月 | 会員発表:西阪多恵子「A.B.マルクス:ソナタ形式論のジェンダー性について」 |
10月 | 会員発表:玉川裕子「Leipziger Str.3におけるFanny Henselの音楽活動試論―ベルリンの音楽生活における再解釈の試み」 会員発表:木下まゆみ「ファニー・ヘンゼルのカンタータ」 |
12月 | 会員発表:湯浅玲子「G . Bacewiczの音楽活動―作曲家、そしてヴァイオリニストとして」 会員発表:小中慶子「音楽専門教育の問題点」 |
2000年度
6月 | 会員発表:木下まゆみ「修論報告:ファニー・ヘンゼルのカンタータ」 |
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7月 | 会員発表:高橋美雪「明治期のヴァイオリン―そのイメージと日本固有の受容の諸相」 |
8月 | 会員発表:玉川裕子「<少女とピアノ>近代日本におけるイメージの成立」 |
10月 | 会員発表:西川照香「博論報告:日本西洋音楽史にみる女性の位置」 |
2001年度
5月 | 招待講演 持麾 勉 ヴェルディ『オテロ』をジェンダー批判から読む」 |
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7月 | 招待講演 袴田麻祐子「宝塚をめぐる変容~少女『による』歌劇から、少女の『のための』歌劇へ~」 |
8月 | 第13回女性学・ ジェンダー研究フォーラムワークショップに参加 ワークショップ報告 西阪多恵子 「いま、なぜ女性作曲家か」 |
9月 | 会員報告 西阪多恵子 「平成13年度女性学・ジェンダー研究フォーラム」 会員報告 玉川裕子 第3回アジア太平洋音楽教育シンポジウム」 |
11月 | 会員人物紹介 樋口眞規子 「ジェーン・アダムスの生涯」 会員人物紹介 市川啓子 「ガントレット恒の生涯から見えてくるもの」 |
12月 | 招待講演 早崎えりな「作曲家ヴィルヘルミーネ・フォン・バイロイト辺境伯夫人」 |
1月 | 会員発表 玉川裕子 「サロン-サロン音楽-音楽サロン」 |
2月 | 招待講演 谷戸基岩「コンサートにむけて~人と作品を知ろう~アンリエット・ルニエを中心に」 |
2002年度
4月 | 会員文献紹介 玉川裕子「『ベッティーナ・フォン・アルニム邸での四重奏の夕べ』について-ボルヒャルトの論文紹介」 |
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5月 | 会員報告 小林緑「女性と音楽をめぐるフランスの状況~フランス国営放送の女性作曲家特集について~」 |
6月 | 会員発表 西阪多恵子「レベッカ・クラークのヴィオラ・ソナタをめぐって」 |
10月 | 会員発表 辻浩美「日本の近現代音楽史における女性音楽家~音楽雑誌と婦人雑誌を通して」 |
12月 | 会員文献紹介 西阪多恵子「R.ソリーのドリンカー論『音楽と女性の歴史』の『あとがき』紹介」 |
2月 | 会員発表 辻浩美「日本の洋楽史における女性作曲家の軌跡」 |
2003年度
8月 | 会員発表 高橋美雪「19~20世紀前半の欧米における女性オーケストラ |
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11月 | 会員発表 小林 緑「ルイーズ・ファランクをより深く知るために-教育者=理論家としての業績を中心に」 |
12月 | 会員発表 川嶋ひろ子「日本および欧米の音楽大学における『女性作曲家作品』演奏状況に関するアンケート結果」 |
2月 | 会員文献紹介 小中慶子「アウシュヴィッツの女性オーケストラ『アルマ・ロゼー;ウイーンからアウシュヴィッツへ』から |
2004年度
4月 | 会員発表 吉田朱美「19世紀末イギリス小説における女性作曲家の描かれ方」 |
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8月 | 会員発表 小池智子「バロック期のイタリア人女性作曲家」 |
9月 | 会員発表 藤村晶子「統合十年・ドイツ現代音楽のいま-非対称性のゆくえ |
2月 | 会員発表 玉川裕子「ホフマン著『楽器と身体』をめぐって」 |
2005年度
4月 | 会員発表 川嶋ひろ子「クララ・シューマン活動の軌跡‐居住地を中心に」 |
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6月 | 会員発表 西阪多恵子「オペラのジェンダー論、その反フェミニズム的読み替え‐《ルル》を中心に」 |
10月 | 読書会 「フェミニン・エンディング」第3章 |
12月 | 読書会 「フェミニン・エンディング」第4章 |
2月 | 会員報告 市川啓子「ジュディス・バトラー講演会 受講報告」 |
3月 | 会員発表 辻浩美「音楽雑誌における女性に関する記事の分析」 |
2006年度
5月 | 会員発表 小中慶子「高校音楽教科書の問題点‐ジェンダーの観点から」 |
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7月 | 会員発表 西阪多恵子「女性作曲家を主とするアメリカの西洋芸術音楽史テキストについて |
9月 | 会員発表 辻浩美「女性執筆者による記事分析‐大正・昭和期の音楽雑誌を中心に」 会員報告 市川啓子「音楽史研究会例会を受講して‐18世紀ナポリのオペラと女性」 |
11月 | 会員発表 梅野りんこ「ジェンダー視点で見るオペラ」 |
3月 | レクチャー・コンサート(3/24)準備 辻浩美「昭和を生きた二人の女性作曲家~金井喜久子と吉田隆子~」 |
2007年度
4月 | 会員報告 玉川裕子「ブレーメン雑感」 |
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5月 | 会員発表 梅野りんこ「『赦し』‐女に課された役割~ジェンダー視点で見るオペラ |
7月 | 会員発表 玉川裕子「三浦環を読み直す‐女性の音楽活動をめぐる同時代の文脈の中で」 |
9月 | 日本音楽学会第58回全国大会シンポジウム発表準備 辻浩美「日本の洋楽史における女性作曲家」 西阪多恵子「『音楽における女性』研究、三つの波‐1970年代以降のアメリカ」 |
11月 | 会員発表 吉田朱美「George SandからGeorge Mooreへ‐19世紀小説中の女性オペラ歌手の描写」 |
1月 | 会員発表 玉川裕子「W.H.リールの家庭音楽論」 |
2月 | 会員発表 小林綠「Think globally, Act locally/ Penser globalment, Agir localement‐日本の女性として『日本・女性・音楽』について考える‐」 |
3月 | 会員発表 花岡美智「金井喜久子の音楽活動~作曲に対する意識の変化を追う」 |
2008年度
6月 | 会員発表 川村優子「エイミー・ビーチAmy Beach(1867-1944)のピアノ作品について」 |
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7月 | 招待講演 平間充子「日本古代の芸能とジェンダー~源氏物語を中心に」 |
9月 | 会員発表 竹山貴子「近代的子ども観と神童~その関係と思想的文脈」 |
10月 | 会員発表 山本光世「地域で女性作曲家の作品を演奏する、ということとは」 |
11月 | 会員発表 小林緑「もうひとつのバイロイト体験記」 |
1月 | 会員発表 吉田朱美「ジョルジュ・サンドの小説『コンシュエロ』を読む」 |
3月 | 会員発表 川村優子「エイミー・ビーチのピアノ独奏作品研究」 |
2009年度
5月 | 会員発表 辻浩美「吉田隆子の活動を追う」 |
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7月 | 会員発表 梅野りんこ「17世紀フランスオペラとその社会~リュリの《テゼ》とシャルパンティエの《メデ》から見た近代ヨーロッパ」 |
8月 | 会員発表 歌川光一「明治後期女子啓蒙論に見る花嫁修業イメージの変容過程」 |
10月 | 会員発表 辻浩美 「久野久子(1885~1925)の演奏活動と評価」共通テキストに基づく報告と討論 会員報告 玉川裕子 『新編日本のフェミニズム7 表現とメディア』「清き誌上でご交際を」 |
12月 | 会員発表 西阪多恵子「イギリス女性参政権運動と女性音楽家~女性音楽家協会を中心に」 |
1月 | 会員発表 川嶋ひろ子「クララ・シューマンを取り扱った映画作品(DVD)の比較と考察」 |
3月 | 会員発表 歌川光一「明治期創刊婦人雑誌にみる箏・三味線習得イメージの変遷~遊芸の花嫁修業化に関する序論的考察」 |
2010年度
4月 | 会員発表 小林緑「ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド没後100年コンサートをめぐって」 |
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6月 | 会員発表 玉川裕子 「音楽表現に性差はあるか?~メンデルスゾーン姉弟のチェロ作品をめぐって」 |
8月 | 会員発表 西阪多恵子「レベッカ・クラークの歌曲におけるアイロニー」 |
10月 | 会員発表 竹山貴子「子どもと演奏会の関係にみる子ども観~19世紀イギリスの音楽雑誌を手がかりに」 |
11月 | 会員発表 渡辺佐恵子「葛西おしゃらくについて」 |
1月 | 会員発表 梅野りんこ「フランス・オペラにおけるメデ神話と女性の表象」 |
2011年度
5月 | 招待講演 田丸彩和子氏 (作曲家)「私の作曲家人生」 |
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6月 | 会員発表 西阪多恵子「レベッカ・クラークの歌曲におけるアイロニー」 |
8月 | 読書会:小谷真理「この批評(テクスト)に女性はいますか?―男の批評を批評する」(『表現とメディア』より) 会員発表 玉川裕子「音楽取調掛および東京音楽学校教員(明治期)のジェンダー構成」 |
11月 | 会員中間報告 辻浩美『作曲家・吉田隆子―書いて、恋して、闊歩して』 会員発表 歌川光一「戦前期礼儀作法書にみる音楽」 |
1月 | 会員報告 辻浩美『作曲家・吉田隆子―書いて、恋して、闊歩して』 (教育史料出版会)の出版報告 会員発表 小林緑「ポリーヌ・ヴィアルドの『新しい共和国』と“国歌”」 |
3月 | 招待講演 室町さやか「ヴェネツィアの福祉施設オスペダーレ研究における同定問題と女性作曲家たち」 |
2012年度
4月 | 会員発表 玉川裕子「フェリックス・メンデルスゾーンのチェロと ピアノのための≪無言歌≫再考」 |
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6月 | 招待講演 岡田真紀「民族音楽から『女性の生き方』にいたる道」発表要旨民族音楽との出会い 私が東京芸術大学楽理科に入学したのは1970年、ちょうど70年安保闘争の年でした。芸術家の卵たちが集う芸大も社会的な動きと無縁ではなく、学生自治会の呼びかけで音楽学部・美術学部を問わず大勢でデモに行き、声楽科の学生の朗々たるテノールに導かれて「インターナショナル」を歌ったことが思い出されます。60年代は、アメリカでは黒人差別反対の公民権運動、ベトナム反戦運動、フランスでは1968年の5月革命、中国では文化大革命、日本でも沖縄返還運動と、世界中で変革へのエネルギーが高まっていた時期で、学生たちが社会に関心を持つことは自然なことでした。 私は、女でも経済的に自立できることを願った母親に「ピアノの先生になりなさい」と言われて育ち、幼い頃からピアノを習い、楽理科に進みましたが、芸大で民族音楽学者、小泉文夫先生との出会いによって、音楽への考え方ががらりと変わりました。初めて聴いたインド音楽、朝鮮半島の音楽など、民族音楽自体魅力に富んだものでしたが、騎馬民族と農耕民族のリズム感の相違とか、モンゴルの自由リズムのオルティンドーと日本の馬子歌の共通性とか、民族の文化の特徴を大きくつかんで、伝播の過程や文化の他の側面との関連などを話され、普遍性と個別性の両面から世界の音楽を見ることに知的な興奮を覚えたのでした。 芸大の大学院を修了後、アメリカに渡りました。当時の日本は、男女雇用機会均等法が施行される10年ほど前で女性は就職試験すら受けられない会社が多数あり、私は社会における女性差別をひしひしと感じていました。そこでアメリカ社会でもっとも差別を受けてきた黒人女性について研究しました。差別と貧困の中にあって、男性の経済力に頼ることもできず、黒人女性は奴隷時代以来常に働き続けてきました。黒人の家族に住まわせていただき、シングルマザーであっても、両親やおじ・おば、きょうだいの助けを借りてたくましく子育てをする力や、男性に頼らない自立した生き方、母子家庭の子どもを差別しない包容力のある社会のあり方など、黒人の営みの温かさを実感する体験でした(『黒人の家族と暮らす』草思社、1986)。 家族を持って 帰国後まもなく小泉先生が56歳の若さで亡くなられ、先生の著作を丹念に読み、交友があった皆さんにお話を聞くという小泉文夫フィールドワークを行い伝記を書き上げました(『世界を聴いた男―小泉文夫と民族音楽』平凡社、1995)。先生はソ連(現在のロシア)、中国、朝鮮半島の音楽家、つまりはるか昔、シルクロードの道で交流のあった人々を同じ舞台の上にあげて、かつての人のつながりを彷彿とさせるシルクロードの音楽会を実現されました。当時はまだ東西冷戦の最中で各国が政治的に敵対しており、実現までには大変な苦労があったそうです。多くのフィールドワークから、音楽とは人をつなぐものであるということを確信されていたのでした。先生の「自分の価値観でほかの文化を判断してはならない」という教えは私の人生の指針となっています。 一方、家庭ももち、3人の子どもを育てましたが、「子ども」というのは自分とはまったく違った存在であることを確認していく体験でした。自分の価値観の狭さを子どもに突きつけられると同時に、日本という消費社会・教育志向社会において「親であること」の難しさを痛感しました。自分自身の学びとするためにも、子どもの「問題」から自分や社会の「問題」へと視野を広げ、価値観を拡げ、子どもとの関係を修復なさった方々からお話を伺って本にまとめました(『不登校・非行・ひきこもりになったわが子―悩みを乗り越えた母親たちの声―』学苑社、2007)。 また、ベトナムで読み継がれてきた童話で、長く他国の侵略や内戦を経験してきたベトナム人だからこそ、武器を捨ててみんなで食べ物を分かち合って平和に暮らそうと呼びかけるお話を英語版から翻訳しました(『コオロギ少年大ぼうけん』新科学出版社、2007)。 改めて社会と向き合う 現在は、原発事故をテーマに映画を撮った女性監督や民法で男女別姓が認められるよう活動している方々といった素敵な生き方をしている女性を取材して女性向けの新聞に記事を書いています。政治的な内容を含みますが、私は政治は生活そのものだと思っています。地震国日本にこれほど原子力発電所があり、今もなお福島はむろんのこと東京の人間でさえ子どもの放射能被害に怯えなくてはならないのは原発を推進してきた国の政策ゆえですし、子どもを預ける保育園が見つからなくて、女性が働くことをあきらめなくてはならないのも保育園を作ろうとしない行政の方針からです。今、憲法を変えようという動きが強くなっていますが、音楽家も美術家も「国策」に対して自由な立場をとれなくなり、戦争に協力させられてきたのは、つい70年ほど前のことです。平和を希求してピカソが『ゲルニカ』を描き、カザルスが『鳥の歌』を演奏したように、芸術家が戦争から超然としているわけではありません。私は芸術家ではありませんが、音楽を愛しつつ、いのちを大切にする社会になるよう、これからも一市民として仕事や活動をしていきたいと思っています。(了) |
8月 | 会員発表 渡邊佐恵子「東京都江戸川区の民俗芸能葛西おしゃらくについて」発表要旨本研究では、東京都と千葉県の境を流れる江戸川の下流域である、東京都江戸川区葛西、及び、千葉県浦安市の両地区で伝承されてきた民俗芸能「おしゃらく」のうち、葛西地区で現在も伝承されている「葛西おしゃらく」について取り上げた。この「葛西おしゃらく」について、現在の保存会の活動を調査することに加え、「葛西おしゃらく」で演奏されている主な曲目を採譜し、その曲の分析を行うことで、この芸能の民俗面、及び音楽的内容を考察した。 まず、保存会の稽古観察から明らかになったのは、様々な方法で、おしゃらくの下座音楽と踊りが伝承されてきたということである。 保存会の活動は、藤本氏を中心に、保存会設立時の会員からの伝承を守っていく一方で、保存会の月に1回の稽古以外の日々の稽古では、葛西の女性たちが通常の稽古の中心となっているということが分かった。 三味線の場合には、藤本氏はまず、保存会設立時の会員から得たものを葛西に在住していた自身の三味線の弟子に口頭伝承し、それとともに楽譜という形で書き記した。そして、その弟子から、それまでおしゃらくを知らなかった地元葛西の女性に伝承され、現在の日々の稽古では、その女性を中心に、藤本氏が書き記した楽譜も用いて三味線の稽古が行われている。 下座の唄や太鼓に関しては、藤本氏が保存会設立時の会員たちから伝承した技術を、できるだけ、現在の会員たちに直接口頭伝承で伝えている。そして、稽古の際には、必ずしも口頭伝承にこだわらず、カセットテープという第二次口頭性の道具も用いて、柔軟に稽古を行っていることも明らかになった。藤本氏からの稽古は、もちろん毎日受けられるわけではないので、カセットテープに録音し、それを元に、日々の練習を個人個人でしているのである。いわば、第一次口頭性と第二次口頭性の伝承方法を同時に行っているのである。 踊りは、保存会設立時に踊りを担当していた会員から直接指導を受けた会員が、現在は保存会の踊り手のリーダーとなり、保存会に入会して初めておしゃらくを知った会員への稽古をしている。 このように、おしゃらくの伝承は、総じて見ると、 ①口頭伝承 という3種類の方法を用いて成り立っていることが分かった。 また、おしゃらくの中で唯一地元葛西を唄った曲である『新川地曳き』の三味線の、構造的な見地からの分析を中心に、おしゃらくの音楽的構造を明らかにした。その際、約5-15小節で反復されている6つのフレーズと、そのフレーズの単位より短い約1-3小節の旋律を14の基礎モティーフに分けて分析を行った。そして、その基礎モティーフを分析により、類似、準類似、対比関係に分けて進めていった。明らかになったのは、以下の4点である。 ①14の基礎モティーフとその変形のパッチワークで全体が形成されていることが分かった。 ②その基礎モティーフが集まってできた6つのフレーズがそれぞれ何回も反復されていて、このフレーズがこの曲の大部分を占めていることから、反復がこの曲で重要な技法だということも分かった。 ③しかし同時に、曲は単純な反復に終始しているわけではなく、曲が進むにつれ、各基礎モティーフの中でも変形が行われていることも明らかになった。 [1]ワルター・オングWalter Ongの用語。口頭性が記されないまま、空間的にも時間的にも離れた人間に働きかけることを指す。(徳丸:1991:74) |
10月 | 会員発表(出版報告)平高典子「幸田延の『滞欧日記』について」 |
12月 | 会員発表 歌川光一「20世紀初頭の女性雑誌付録絵双六にみる『楽器定義のジェンダー化」過程ー雑誌の対象年齢層に着目してー」 |
2月 | 会員発表 西阪多恵子「女性音楽家協会とW.W.コベット-20世紀初頭イギリス音楽界におけるジェンダーとアマチュア」」発表要旨 本発表は1911年に設立されたイギリスの女性音楽家協会(The Society of Women Musicians 以下SWM)と、その男性準会員であるアマチュア音楽家W.W.コベット(Cobbett,Walter
Willson 1847-1937)との関わりをジェンダーとアマチュアの関係を中心に考察したものである。 アマチュアとプロをめぐるこうした状況を背景に、SWMはアマチュアもプロも擁しつつ、会員のプロ意識や専門知識を高め、音楽界での知名度を上げるべく努めた。SWMの主目的は女性音楽家の相互協力であり、アマチュアとプロとの明確な区別は(アマチュアの方が若干高めの会費以外には)なかった。会員は共に学び、演奏した。また準会員として男性の入会を歓迎した。準会員の1人であるコベットは現代イギリス室内楽の振興に努めたパトロンとして知られる。彼は音楽誌の編集や執筆、ヴァイオリニストとしてのプロとの共演など、プロの音楽界に深く関わりながらも、アマチュアの演奏を促進し、アマチュアとしての明確な自意識を常に前面に打ち出していた。 そのようなSWMとコベットは協力してSWMにおける「コベット・フリー・ライブラリー」と「コベット・チャレンジ・メダル」の企画を実践した。前者はコベットがSWMに寄贈したイギリス室内楽の楽譜百数十点による貸出ライブラリーであり、SWMの管理の下、アマチュアや学生など一般に公開された。後者は四重奏の演奏水準の向上を目的とするコベットの寄付金に基づく演奏コンテスト賞であり、当初はSWM会員対象であったが、後に対象はアマチュア一般に拡大された。SWMとコベットはこのようにアマチュアや一般音楽愛好家に広く利すべく協働した。 SWMの個々の会員もコベットと様々に関わりあった。なかでもコベット編集による雑誌『室内楽』上のマリオン・スコットとキャサリン・エッガー(共にSWMの創立メンバー)共著の連載記事「室内楽における女性」は、音楽クラブなど相対的に女性の活動が著しい領域を扱うことにより、アマチュアもプロも含む音楽の多様な営みに目を向けている。それは男性の著名作曲家作品に関心を集中するプロの音楽界の傾向とは対照的である。 コベットは女性組織SWMと深く関わり、SWMや女性音楽家たちの活動の重要性を力説した。だがアマチュアの女性性という通念、アマチュアとしての主張、加えて女性たちとの関わりにもかかわらず、彼は「女性的」ではなかった。むしろ社会的にも内面的にも「男性的」であった。社会的には、自らの働きによって経済力や社会的地位を得た実業家としての男性性であり、内面的には、現実の女性音楽家に対して示す共感にも拘らず、理想の女性の音楽について「男性の服を着るのではなく、自らの本質に忠実な、詩人たちにうたわれた女性」の音楽と述べていることに象徴されよう。女性と男性の音楽は互いに異質であるという考えは、スコットらSWMの中心メンバーの言葉にもみられる。だが、コベットはそのジェンダーにおいて彼女たちと正反対の立場にあった。彼は男性の視点から女性を対象化するという一つの典型的な女性観に与してもいたのだ。 しかしながら、コベットは社会的に勝ち得、内面から支えられた男性性によって、アマチュアとしての主張を広く発信する力を得、女性組織としてのSWMや女性音楽家の活動の可視化に資した。そして、そのように彼を動かした原動力はSWMの女性たちにあった。コベットはその内面的男性性から察せられるように、フェミニストではなかったが、アマチュアとして、比較的偏見にとらわれずに女性の才能や力を受け止めることができたのではないか。男性中心の社会(音楽界)において、女性の相互協力を目的とする組織の設立は、個々の女性の発展のための重要な一歩である。だが、巨大な男性組織ともいえる社会において、女性組織自体が周縁化されないためには、組織が開かれ、発信の場を持たねばならないだろう。そのために一方で男性中心の社会に根を下ろす男性的な男性との協力はきわめて重要であったといえよう。 SWMとコベットとのさまざまな関わりはアマチュアや女性音楽家にとって有益であっただけではない。アマチュア、女性及び女性性は、プロ、男性及び男性性に劣る一連の結びつきとしての連想を固定化しつつあったが、SWMとコベットとの関わりは、そうした連想を撹乱し、音楽界の視野を拡大し、女性音楽家、アマチュア、一般音楽愛好家のみならず、音楽界全体に利する方向へと向かったといえよう。 |
2013年度
5月 | 2013年度総会、活動計画、役員選出、コンサート報告など |
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7月 | 会員報告 小林緑「パリ・オペラ・コミックにおける女性作曲家コロクに参加して」 |
8月 | 会員発表 玉川裕子「音楽の生まれる場・・19世紀ドイツの場合」 |
10月 | 会員発表 小中慶子「『音楽教育実践ジャーナル』Vol.11,no.1の特集:音楽教育とジェンダー~編集に携わって~」 |
12月 | 招待講演 藤田芙美子氏 「子どもの音楽づくりを子どもの側から見直す」 |
2月 | 会員発表 森未知 国立女性教育会館女性アーカイブセンター企画 展示「音楽と歩む」とルイーズ・ファランク「交響曲第3番」(おそらく)日本初演について |
2014年度
4月 | 2014年度総会、活動計画、役員選出 出版予定の執筆者より内容紹介 |
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6月・8月 | 原稿読み合わせ |
12月 | 読書会 小中慶子(コメンテーター) 『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?』を読んで |
2月 | 読書会 梅野りんこ(著者)、西阪多恵子(コメンテーター) 『オペラのメディア』を読んで |
2015年度
4月 | 2015年度総会、活動計画、役員選出 会員発表 水越美和(準会員) 「ポリーヌ・ヴィアルド-ガルシアの演奏活動にみる歌唱の特徴について」 「ジョルジュ・サンド著『イタリア座とポリーヌ・ガルシア嬢』にみる、ポリーヌ・ヴィアルド-ガルシアの歌手像について」 発表要旨ポリーヌ・ヴィアルド-ガルシア Pauline Viardot-García(1821パリ生-1910パリ没、以下ポリーヌと表記)は、スペイン出身の声楽一家ガルシア家の一員で、19世紀を代表するオペラ歌手のひとりである。本発表では、発表者がこれまでに行ってきたポリーヌ研究の中間報告として、「発表1」および「発表2」の2つのテーマに分けてポリーヌの歌手としての特徴について論じた。 発表1 ポリーヌ・ヴィアルド-ガルシアの演奏活動にみる歌唱の特徴について 本発表では、以下の2つの主要な業績を通して形成されたポリーヌの歌唱の特徴について、楽譜の分析および資料の調査を通して検討した。 1. 1849年 マイヤーベーアGiacomo Meyerbeer(1791-1864)《預言者Le Prophète》初演において、女声主役フィデスFidèsを歌う 2. 1859年 グルックChristoph Willibald Gluck (1714-87) 《オルフェオとエウリディーチェOrfeo 1. マイヤーベーア《預言者》フィデス役におけるポリーヌの歌唱の特徴 2. ベルリオーズ編曲版グルック《オルフェオ》オルフェオ役におけるポリーヌの歌唱の特徴 本発表では、作品の成立過程、楽曲構成について概観したうえで、第1幕最終場のオルフェオのアリア“アムールよ、私の魂に返しておくれAmour,
viens rendre à mon âme ”および終結部のカデンツァに焦点を当てて、オルフェオ役の歌唱の特徴について検討した。アリアの構造自体はグルックの原曲からの変更はないが、ポリーヌの要求に従ってオーケストレーションが変更され、声と楽器が分離することなく互いに絡み合う、立体的で色彩豊かな構成となっていることが明らかになった。アリア終結部でポリーヌによって歌われたカデンツァの特徴としては、 以上1および2の検討結果からは、ポリーヌの2つの主要な歌手活動を通して形成された歌唱の特徴として、(1)温かみのある豊かな響きを持ったコントラルトの低音(2)きわめて広い音域にわたる華麗な装飾技術(3)演技も含めての劇的表現力の3点が認められた。
ポリーヌと交流のあった芸術家のひとり、女性作家ジョルジュ・サンドGeorge Sand(1804-1876, 以下サンドと表記)は、オペラ・デビューした直後のポリーヌと知り合って間もない1840年はじめに『両世界評論Revue des deux mondes 』第21巻にて「イタリア座とポリーヌ・ガルシア嬢 Le Théatre-Italien et Mlle Pauline Garcia 」を発表する。本発表では、この論文におけるサンドの主張を整理したうえで、サンドがポリーヌの中に見出した理想の歌手像の特徴について検討した。サンドは、この論文の前半部分では火災に見舞われ移転を余儀なくされたイタリア座の状況をはじめ当時のパリの音楽事情について説明したうえで、フランスの音楽はまだ発展途上にあると述べ、外国の音楽から学ぶことの重要性を訴えている。さらに、政府によって示されたイタリア座の移転と補助金の廃止を非難し、オペラは単に上流階級が独占する娯楽ではなく、すべての人々の精神生活に恩恵をもたらす、高尚で洗練された理想の芸術であると主張している。続く後半部分では、存続の危機に直面するイタリア座に新星のごとく登場したポリーヌの資質について、サンドが理想とする歌手の条件と共に具体例を挙げながら次々と論を展開している。ここで論じられた理想の歌手としてのポリーヌの特徴として、(1)高い知性と音楽の能力、これによって裏づけられた独創性(2)強く気高い精神、寛大で誠実な人格(3)表面的な華やかさよりも、以上の結果から生じる内面的な美しさ、の3点が挙げられる。持論を展開する中で、サンドにとって表面的な美しさ、華々しさはあまり重要でなく、より内面的で高尚なもの、「魂から発し魂に届く」声を求めていること、さらには理想の歌手の活躍によって理想の聴衆も育っていくことを期待していることが明らかになった。 〈主要参考文献〉 2013「グルック作曲《オルフェオとエウリディーチェ》のベルリオーズ編曲版におけるポリーヌ・ヴィアルド‐ガルシアの関与―第1幕のアリア “Amour, viens rendre à mon âme ”および終結部のカデンツァを中心に―」『お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学論叢』15:143-151. 2014「マイヤーベーア作曲《預言者》成立過程初期における考察―ポリーヌ・ヴィアルド-ガルシアによるフィデス役の形成―」『お茶の水女子大学 人文科学研究』10:145-154. 2015「ジョルジュ・サンド著「イタリア座とポリーヌ・ガルシア嬢」にみる、ポリーヌ・ヴィアルド-ガルシアの歌手像について」『お茶の水音楽論集』17:1-12. SAND,George 1840 “Le Théatre-Italien et Mlle Pauline Garcia”,Revue des deux mondes, 21: 580-590. |
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6月 | 会員話題提供 市川啓子 「〈クラシック音楽〉とは?~概念の成立と日本での受容と現況について考える~」 |
9月 | 会員発表 竹山貴子 「音楽と子どもの世界ーClassical Music's Evocaion of Childhood をもとにー」 |
10月 | 招待講演 西風満紀子(作曲家・ベルリン在住) 「ドイツの女性作曲家の状況について」 |
12月 | 『クラシック音楽と女性たち』(青弓社)の出版報告 会員発表 吉田朱美「ジョルジュ・サンドの小説『ルードルシュタット伯爵夫人』の作品紹介」 |
1月 | 合評会 『クラシック音楽と女性たち』(青弓社) コメンテーター 若名咲香(上智大学特別研究員)」 |
3月 | 合評会 『クラシック音楽と女性たち』(青弓社) 第2回 日本の章とコラムを中心に コメンテーター 竹山貴子(会員) |
2016年度
5月 | 2016年度総会、活動計画、役員選出 会員発表 玉川裕子「学習院と音楽――明治初期から昭和初期まで―」 発表要旨本発表では、1877[明治10]年に華族の学校として誕生した学習院における音楽教育を扱った。対象としたのは、創立時から昭和初期までである。 |
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7月 | 会員発表 西阪多恵子「W.W.コベット 近代イギリス音楽界のアマチュアとジェンダー」発表要旨本発表では、前半で2015年度お茶の水女子大学博士学位論文「W.W.コベットの研究―アマチュアの観点から」の概要を紹介し、後半で、男性のアマチュア音楽家W.W.コベット(1847-1937)とその周辺にみられる音楽のアマチュアとジェンダーの関係について論じた。以下は後半の要旨であり、2013年2月の例会発表(要旨既出)のいわば続編である。(博士論文の要旨はお茶の水女子大学附属図書館「教育・研究成果コレクションTeaPot」に掲載) アマチュアと女性及び女性性との結びつきをめぐる興味深い事象の一つは、ジェントルマンのアマチュアリズムに関する言説である。ごく大雑把にいえば、「ジェントルマン」は、18世紀においては貴族や大地主の身分を示唆する言葉であった。男性性を標榜する新興ブルジョワら中流階級はそうした不労有閑の人々を“女々しい”とみなし、その傾向は19世紀にも続いた。プロとしての社会的認知を求める中流階級の男性音楽家は、そうした有閑層を含意するアマチュアに音楽の女性性を転嫁し、音楽家の男性性を主張した。ところが一方で、ジェントルマンの概念は階級を越えて拡大し、多様な意味合いを持つようになった。19世紀が進むにつれ、ジェントルマンらしさは、教養あるアマチュアリズムと共に、ブルジョワらが信奉する近代的男性性によって示されるようになる。職業を営まずとくに金銭的な事柄に関わらないというジェントルマン本来のあり方は、理念として世に継承されながらも、階級的対立が薄れ、上昇志向が広く浸透する中で、財界人らもジェントルマン化していった。元実業家のコベットも国勢調査の職業欄に「ジェントルマン」と記している。そして彼らの間になお脈々と流れるアマチュアリズムは、音楽で収入を得るべからずという女性の規範にいくぶん重なる。背景の相違は大きくとも、そこにはアマチュアであれプロであれ女性音楽家と、アマチュア男性音楽家との間に共感を育む可能性が秘められているのではなかろうか。 実際にコベットが女性音楽家と音楽を共にした場としては、女性音楽家協会関係(2013年2月発表要旨参照)の他、アマチュアのオーケストラやコベットの自宅での私的な弦楽四重奏団、有能な若いプロ演奏家を自宅に招いての室内楽共演などがある。裕福なアマチュアであればこそ享受しえた音楽的交流の機会も少なくない。アマチュア男性コベットと女性音楽家には、理念的現実的な共通性や接触があったといえよう。 その半面、コベットのようなアマチュアや愛好家が男性だけの音楽の集いを楽しむ場も多かった。その典型が19世紀末にとくにアマチュア・オーケストラで流行った喫煙コンサートである。奏者には女性団員、定期演奏会の聴衆には女性会員もいるオーケストラでありながら、煙草をくゆらしてくつろぐ男性だけのためのコンサートが供されていたのである。また、男性限定のアマチュア組織には、オックスブリッジ両大学関係者を主とする音楽クラブやマドリガル・ソサエティなど、音楽のみならず男性同士の社交的な楽しみを重視する傾向があった。一方で男性限定のアマチュア組織に対応する女性組織は少なかったようだ。そもそも一般に、女性の集いといえば、まず慈善活動など他者のためであったのではないか。女性が中枢を担うアマチュア音楽組織が通常男性を排除しないことの背景には、男性中心社会におけるその利点といった実際面のみならず、そうした女性の倫理的規範が働いていたとも考えられよう。 プロ男性中心の音楽界において、アマチュアとプロ、女性と男性をそれぞれ二項対立的にみるならば、アマチュアと女性は共に中心に対する周縁として共通する位置にあると考えられる。しかし、さまざまな対概念が錯綜する実態はこのようにはるかに複雑であった。
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10月 | 準会員発表 湯浅玲子「パデレフスキの自伝を通して見る19世紀の音楽界~パデレフスキの女性観を中心に」発表要旨2016年に出版した訳書「闘うピアニスト パデレフスキ自伝」(イグナツィ・ヤン・パデレフスキ、メアリー・ロートン共著、湯浅玲子訳、上下巻 株式会社ハンナ)を、19世紀末の音楽界という視点から紹介し、数々のエピソードから読み取れるパデレフスキの女性観に触れた。
Ⅱ パデレフスキをめぐる人々
女性に関しては、肉体的な男女差に触れることはあっても、蔑視するような言動は自伝からは読み取れなかった。むしろ幼少時に、女性を含め、他者との人間関係が築けなかった環境にいたことをコンプレックスと思っているような発言もある。また、裏切りや嫌がらせ、といった苦い思い出の数々は、もっぱら男性が対象となっている。はじめから女性と同じ土俵に立っていなかったという可能性もある。 アメリカでレディーファーストの習慣を目の当たりにしたパデレフスキは、その習慣が素晴らしいとしながらも、現在の世の中は、平等という名のもとに、女性が男性の仕事を奪い、なおかつこれまでの女性としての特権を要求しているところに不平等さを感じていると語っている。そしてそうした状況がトラブルの原因だと考えている。 パデレフスキは、男性と女性では男性の方が有利であると語っている。例として女優の容姿を挙げ、男優であれば、年老いても受け入れられるが、女優は容姿がすべてであるとしている。イギリスは例外と考えていたようだ。 Ⅲ 19世紀末の音楽界 2)コンサートの舞台裏
Ⅴ パデレフスキの自伝が遺したもの |
12月 | 会員発表 竹山貴子「ロバート・メイヤーの音楽教育観~『MY FIRST HUNDRED YEARS』を中心に |
2月 | 会員発表 玉川裕子「家庭音楽概念ー近代日本における受容と変容」発表要旨明治半ばから大正にかけての印刷メディアを通覧すると、音楽雑誌に限らず、一般雑誌も含めて、さまざまな場面で「家庭音楽」という語に遭遇する。この語が用いられる文脈は一見したところ多様で、その意味するところは必ずしも明確ではない。それに呼応して、「家庭音楽」をキーワードとした先行研究が対象としている音楽実践は、必ずしも家庭におけるそれにとどまらず、女性のたしなみとしての稽古であったり、邦楽の改良であったり、童謡の隆盛であったり、通信教育による独学であったりと、多様である。 |
2017年度
5月 | 2017年度総会、活動計画、役員選出 会員発表 梅野りんこ「歌舞伎から見える近世の女性~オペラとの比較を通して~」 |
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7月 | 会員発表 歌川光一「近代日本における中上流階級女子のたしなみ像―19世紀末から20世紀初頭東京の音楽文化に着目して―」 |
9月 | 招待講演 古仲素子「旧制中学校における音楽部の活動について」発表要旨本発表においては、1900年代から1930年代の中学校における音楽部の活動状況を、主に校友会雑誌における音楽部報を用いながら解明した。戦前の学校における、生徒を中心的な担い手とした多様な音楽活動の様相を明らかにすることで、旧制中学校の音楽教育を教科外活動の側面から照らし出すことを試みた。なお、本発表で中心的には扱わなかったが、男子の学校である旧制中学校の音楽教育に関する検討は、同時期の女学校におけるそれと比較することで、ジェンダーによる音楽教育の位置付けの違いをより鮮明に浮かび上がらせることになるだろう。 |
12月 | 会員発表 西阪多恵子「ヴァイオリンは誘(いざな)う―19世紀イギリスの“新しい少女”」発表要旨19世紀末のイギリスでは、かつて男性の楽器であったヴァイオリンが女性たちの間に急速に広まった。本発表はその背景と状況をめぐる考察である。 |
1月 | 会員発表 小林緑「杉並区で行ったコンサートをめぐって~音楽と言論」 |
3月 | 会員発表 玉川裕子「学習院女子における音楽~『おたより』を読む」 |
2018年度
5月 | 2018年度総会、活動計画、役員選出 研究発表 招待講演 片山亜紀「ヴァージニア・ウルフと音楽」 |
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8月 | 書評会『クラシック音楽とアマチュア』(青弓社)コメンテーター 西阪多恵子(著者・会員)、吉田朱美(会員)、森未知(会員) |
11月 | 会員発表:玉川裕子 書評 Beatrix Borchard他編著『インターネットにおける音楽の伝達とジェンダー研究 Musik(vermittlung)
und Gender(forschung) im Internet』 |
1月 | 打ち合わせ:フォーラム主催コンサートについて |
2019年度
5月 | 2019年度総会、活動計画、役員選出 |
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8月 | 会員発表:増山瑞彩「藤原義江の戦時下の活動~藤原歌劇団によるオペラ上演に着目して~発表要旨本発表では、藤原義江(1898-1976)主宰の藤原歌劇団が十五年戦争期に行ったオペラ上演を中心に、藤原義江の戦時下の活動を整理する。 |
11月 | 会員発表:水越美和「G.ヴェーデル『歌姫』とポリーヌ・ヴィアルドーガルシアの記述における女性歌手の理想像」発表要旨G. Wedelによる『歌姫』Die Sängerin (WEDEL1837) は、ライプツィヒの音楽雑誌『音楽新報』Neue Zeitschrift
für Musikにて1837年10月発表された小説で、ヘンリエッテ・カールという名の歌姫をはじめとする登場人物たちの描写を通して、理想の歌手や聴衆について様々な見解が述べられている。本研究ではポリーヌ・ヴィアルド‐ガルシアPauline
Viardot-García(1821-1910, 以下ポリーヌと表記)が歌手としてデビューする直前に発表された『歌姫』を主要な研究対象に採り上げ、ここにおいて提示された女性歌手の理想像と、後に語られるポリーヌの歌手像の特徴を比較検討することを研究目的とする。 |
1月 | 会員発表:小林緑「リヨン大学博士論文の審査(2018/11/23)に加わって・その他」 |
3月 | 会員発表:増山瑞彩「十五年戦争期の日本におけるオペラー藤原義江と藤原歌劇団を中心に」発表要旨日本のオペラ史研究において、十五年戦争期が、「本格的」上演の開始した時期とされているものの、「本格的」と評価された根拠、ならびに戦時下という危機的状況にもかかわらず、一定の水準に達した経緯については、十分に議論されてきたとは言えない。本研究は、1934年に初公演を行なった藤原歌劇団を対象として、この時期の上演に関する資料を整理することで、十五年戦争期が日本のオペラ史上においてどのような位置を占めるかを明らかにすることを目的とする。 |
2020年度
5月 | 2020年度総会、活動計画、役員選出(メールによる採決) |
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8月 | Zoomによるオンライン・テスト例会 |
11月 | 研究発表:山本陽葉(非会員)「音楽取調掛以前の洋楽導入ー2人の外国人女性によるピアノ伝習ー」(オンライン例会) |
2021年度
5月 | <オンライン例会> 2021年度総会 : 活動報告、 会計報告、今後について、役員改選、その他 会員発表 : 西阪多恵子「ローザ・ニューマーチのフェミニズム―女性・音楽家・人間として」 発表要旨
ローザ・ニューマーチ(Rosa Newmarch, 1857-1940、以下RNと略記)は、イギリスの音楽学者、著述家、詩人。主にロシアをはじめスラヴ音楽の紹介や演奏会の曲目解説の執筆で知られた。本発表では、当時のイギリスにおける「感情的」というロシア音楽観を一つの手がかりに、ニューマーチの執筆や講演にみられるフェミニズムを探る。 *出自および主な音楽活動(本発表に関連する範囲) I 女性としてのニューマーチの諸相 1. アマチュア女性音楽家の葛藤への共感、および、その眼差しのゆくえ RNの親友メアリ・ウェイクフィールドは、アマチュア向け全国音楽コンペティションの創始者にしてたゆみなき推進者。自らのはたらきへの誇り・喜びと、女性ゆえ才能に恵まれながらプロ歌手への道を断念した無念との彼女の葛藤に、RNは複雑な思いを抱く。著書『メアリ・ウェイクフィールド』(1912年出版)でRNは、女性アマチュア音楽家の典型的な姿に共感しつつも、プロ音楽界の外に眼差しを向け、プロ歌手の名声の代わりに人々の音楽生活を豊かにした親友の選択を祝福した。 2. 女性の権利(性平等)、著作者の権利 以下の例にみられるように、RNの諸権利の主張は、女性音楽家としての責任感と、仕事に対する自負のあらわれといえよう。 ・日曜コンサートシリーズの曲目解説を、前任の男性より安い執筆料で依頼された際、承諾は女性の仕事の過小評価につながるとの理由で辞退(1908年)。 3. 女性の音楽はいかにあるべきか―理想の創造的女性音楽家 女性音楽家協会の会長演説で、RNは、来たるべき一流の創造的女性の音楽は、男性的な手法によらず、「女性の魂と感情を完全に表現」し、「特有の情熱、完全に女性的なひたすらな優しさに満ちている」との期待を高らかに表明した。 II 肯定的?否定的?—感情的なものをめぐるロシア音楽観 作曲家や音楽批評家の間には、ロシアをはじめスラヴ音楽を「感情的な」性質ゆえに見下す傾向があった。その主な標的は、音楽愛好家やアマチュアの間で絶大な人気を博したチャイコフスキー音楽である。RNは、一方では、彼の音楽で時に感情的な性質が知的な性質を凌ぐことを良しとし、その「数多くの傑作」を称揚し、演奏推進に努めた。またスラヴ音楽の「感動的な優しさ」をスラヴの優れた天性と称えた。しかし他方で、RNは、チャイコフスキーは感情的で主観的な性格ゆえにオペラの劇的用法に向かないなど、感情的であることと、音楽上の限界とを関連づけた。また、彼を「励まされたいという殆ど女性的な切望を抱く」「女性的な感受性」の音楽家と述べ、その音楽に「ヒステリックな傾向」があるとした。 Ⅲ 感情・女性(的なもの)・人間性― 注目すべきは「人間性」という言葉である。RNは、チャイコフスキー音楽の「正直に感情的で人間的な要素」に関心を抱く人々に共感を示し、その音楽は「国民性より人間性が顕著」と述べた。この言葉から、RNは感情的なものを人間らしさとして受け止めていると考えられるのではなかろうか。それは、「女性の魂と感情の完全な表現」というRNの創造的女性音楽家への期待にも関わると思われる。
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6月 | 臨時総会:規約の改定について(メールによる採決) |
7月 | <オンライン例会> 会員自己紹介 会員発表:岩本由美子「声楽家または器楽奏者としてのソフィア・ドゥセクのコンサート活動― ミス・コッリ/マダム・ドゥセク/ミセス・モラルトと呼ばれた女性音楽家は、誰と何を演奏したのか ― 」 |
8月 | <オンライン例会> 特別例会 *生誕200年記念ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド特集 会員発表 : 宮﨑貴子「ポリーヌ・ヴィアルドと作品の紹介」 会員発表 : 水越美和「オペラ歌手ポリーヌ・ヴィアルド=ガルシア(1921-1910)の活動とガルシア 家―パリ・イタリア座デビューに至る足軸を中心に―」 会員発表(資料提示) : 小林緑「『ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド生誕200年』に向けて」 |
12月 | <オンライン例会> 会員自己紹介 会員発表 : 増田明日香「マルグリート・カナル Marguerite CANAL (1890-1978)―音楽と闘いに満ちた生涯―」 |
3月 | <オンライン例会> 会員発表 : 玉川裕子「ピアノを弾く少女たち」の場 ― 近代日本における「公私の中間領域」をめぐって ― |
2022年度の例会
6月 | <オンライン例会> 2022年度総会:活動報告、会計報告、役員改選、その他 中間報告:市川啓子「フォーラムの歩みの始まりー30年史(試案)」 |
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9月 | <オンライン例会> 報告: 玉川 裕子 映画『映画はアリスから始まった』ー音楽史との比較の観点から 研究発表: 吉松 千鶴子 「「少女」像と表象としてのピアノー雑誌『少女の友』からの一考察」《「読者会」での音楽 的活動に着目して》 |
10月 | <オンライン例会> 研究発表 : 青木 慧 「江戸期吉原遊郭における音楽文化に関する研究―江戸文学での記述をめぐって」 |
2023年度の例会
4月 | 2023年度総会:活動報告、会計報告、役員改選、その他 (対面、オンラインによるハイブリッド型例会) |
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6月 | <例会> 1. 読書会 (小林 緑、坂口 千栄) ポリーヌに魅せられて」~著者 小林 緑先生を囲んで |
12月 | <例会> 1. 2024 年 11 月 17 日予定の主催コンサートについて 2. フォーラム所有の資料について 3. 結成 30 周年記念誌について 4. その他 |
1月 | <例会> 1. 新入会員の紹介 2. 2024年11月17日予定の主催コンサートについて 3. フォーラム所有の資料について 4. 結成30周年記念誌について 5. 読書会『「ピアノを弾く少女の誕生』 著者:玉川 裕子/ インタビュアー:吉松千鶴子 |